皮膚の再生医療は約30年前から行われており、再生医療の先がけといえます。皮膚の細胞は大量に培養ができるので、本人の皮膚細胞をとって培養し、再び本人に戻す、という再生医療のモデルがすでに確立しています。

再生医療の先がけ

やけど

料理で指を切ったり、転んですりむいたりした皮膚は、1週間もあればふさがり、数週間で跡形も残らないように再生されます。しかし、大きなやけどなどで、広範囲にわたって皮膚が失われた場合は、命を失う危険性があります。やけどをした場所から体液が出ていってしまうこと、皮膚のバリアがなくなり、細菌に感染して敗血症になってしまうことが原因です。成人ではやけどをした患者の年齢とやけど面積の和が100を超えると命の危険があると言われています。たとえば70歳の方が40%のやけどをすると、その和は110となるので非常に危険な状態です。そこで、重度のやけどをした皮膚に、患者の別の皮膚を移植する医療が、古くから行われてきました。また、患者の皮膚の細胞を培養して増やし、本人に移植する再生医療は約30年前から行われており、これが再生医療の先がけといえます。

皮膚の構造

皮膚の構造皮膚は大きく分けると、外側から約0.2mmの表皮、その下には1~5mmの真皮、その下に皮下組織という構造になっています。新しい肌の細胞は表皮の一番底にある基底層というところで生まれます。そこから徐々に外側へと古い細胞が押し上げられ、外側の角質層となり、約28日周期で垢となって剥がれ落ちます。いわゆる肌の新陳代謝というものです。乾燥や肌あれ、シミ、吹き出物などの肌トラブルは、角質層に出てくるものです。表皮にある表皮角化細胞(ケラチノサイト)が外敵からのバリアゾーンになっていますが、この部分が失われると細菌が侵入してきてしまいます。

やけどの治療

救急車

日常生活の中でも、油や熱湯をかぶったり、火事やバイク事故などで、このような事態になる危険性があります。表皮の大部分が失われて救急車で運び込まれたら、本人の背中やお尻などから薄く表皮をとり、やけどの部位に移植します。
しかしそれでも皮膚が足りない場合は、特殊なガーゼを貼るか、他者から皮膚を移植します。感染症の危険から身を守るのが一番大切だからです。他者から移植したとしても、皮膚は本人の皮膚か一卵性双生児の皮膚でないと生着しませんが、これによって致命的な体内状態の悪化と細菌感染を防ぎ、本人の皮膚の育成を助けます。
他者からの移植で非常事態をしのぎ、本人の細胞を培養した後、再び移植手術を施します。表皮には細胞を増殖させる幹細胞があるので、10cm×10cmの皮膚を約1カ月で2m×2mの大きさに培養することができます。培養した皮膚を本人に移植することで皮膚が生着します。

他者からの移植皮膚

手術室

緊急時の皮膚移植のために、2005年に日本スキンバンクネットワークがつくられ、移植用の皮膚を保管しています。やけどによる死者は年間600人にも及びます。緊急時にも他者の皮膚が準備できるように、このバンクでは亡くなった方の皮膚を冷凍保存し、いざという時に命が救えるように準備しています。これによって、30%に満たなかったやけどの広範囲重傷者の生存率が、62%まで引き上がったそうです。

本人の皮膚培養

培養表皮日本ではジャパンティッシュエンジニアリング社が、本人の皮膚を培養してシート状にする培養表皮シートを製品化しています。患者に合わせた細胞を提供するオーダーメイド医療の先がけ商品とも言えます。2009年より保険適用の対象となりました。また、真皮層まで達した重度のやけどに備えて、セルバンク社が真皮層まで含めた複合型培養皮膚の培養事業を行っています。

DDSによるグロースファクター(細胞増殖因子)の徐放

皮膚の真皮層にまで達する深い傷の場合には、真皮の再生も必要となります。真皮層の皮膚を培養して移植すると、移植先で真皮はbFGFというグロースファクターを放出し、周囲の表皮細胞を増殖させ、表皮を再生させていきます。真皮にはグロースファクターを生み出す力があります。皮膚の培養の速度を速めるために、bFGFを注入すると、細胞の増殖が速まります。しかしグロースファクターを一気に注入しても、すぐになくなってしまうため、DDS技術の徐放化を使って、徐々に細胞の近くでグロースファクターを放出するようにします。

bFGFDDS材料のハイドロゲルにグロースファクターを閉じ込め、徐々に細胞の近くで放出するようにすると、グロースファクターが徐々に浸透し、表皮細胞の増殖が速まっていきます。ハイドロゲルはそのまま体内で分解・吸収されていきます。このような技術により、培養期間を短縮できるのでは、と注目されています。

続いては血管の再生です。

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参考文献

  • 八代嘉美、中内啓光:「再生医療のしくみ」日本実業出版社(2006年)
  • 田畑泰彦、岡野光夫:「ティッシュエンジニアリング2007」メディカルドゥ(2007年)
  • 田畑泰彦:「進み続ける細胞移植治療の実際上下巻」メディカルドゥ(2008年)
  • 田畑泰彦:「ますます重要になる細胞周辺環境の最新科学技術」メディカルドゥ(2009年)
  • 岩田博夫、加藤功一、木村俊作、田畑泰彦:「バイオマテリアル」丸善出版(2013年)