1920年代から「損傷した中枢神経は再生しない」という説が長い間信じられてきました。しかし近年、神経科学が発展し、その概念は覆されています。ここでは神経の再生について見ていきます。

神経とは

中枢神経と末梢神経

神経は、血管のように体の隅々まではり巡らされ、無数の細胞や組織と連絡を取り合うネットワークの役目をしています。体の中央を通る神経が中枢神経。神経の束の集まりで、背骨に守られています。中枢神経から体の隅々に分かれている神経を末梢神経と言います。

「手を動かす」「足をあげる」など、脳からの命令は、中枢神経、末梢神経を通って各部に伝わっていきます。神経のネットワークを微弱な電流が流れて、各器官へ伝わっていきます。

痛み

痛い体の痛みを伝えるのも神経です。体のどこかで傷がついたり、臓器のひとつが炎症を起こしたりした場合、「体が傷ついた」という情報が発生します。その情報は電気信号に変換され、神経を伝って脳に届き、初めて「痛い」と感じます。「痛み」は体の異常をはっきり気づくためのサインです。痛みがなければ病状には気づかずにどんどん悪化し、大切な組織を失ってしまうことになります。

指の神経が切れた場合の再生

料理で包丁を使う

生活に身近なところでは、料理をしていて指を切ってしまった、ということがあります。皮膚を傷つけた程度であれば数日で元に戻りますが、傷が非常に深く、神経まで傷つけてしまった場合は大変です。神経が切れるとその先の指は麻痺して動かせなくなります。整形外科に行っても、皮膚のように、神経をすぐに縫合して再生、というわけにはいきません。皮膚と違って神経は非常に繊細なので、手術用の顕微鏡で見ながら縫合します。神経はきれいに切れているわけではなく、断面が傷んでいることが多いのです。それを直接縫合すると、神経が再生できないので、傷んだ部分をきれいに切除して縫合するといった処置がとられます。しかし神経を切ると短くなってしまうので、その部分は移植するか、人工的なチューブで補うかが必要になります。

再生を誘導する治療では、人工的なチューブでいったん神経をつなぎ、神経細胞がそのチューブ沿いに再生されていくと同時に、人工的なチューブが体に吸収されて、なくなっていくのが理想です。人工的なチューブにDDS化したbFGF(神経細胞の増殖を促す因子)を徐放し、神経細胞を再生させる試みがなされています。この方法で、動物実験では効果が出ていることが報告されています。

脊髄損傷とは

体の神経が集まっている中枢神経を守る脊髄が傷つくと、感覚機能や運動機能に障害が起こります。傷ついた部分から下部の神経に脳から指令が届かなくなると、麻痺が起こります。原因は交通事故や、高所からの落下、転倒などです。

脊髄損傷スポーツでは水泳の飛び込み(浅いプールや海への飛び込み)、スキー、スノーボード、ラグビー、グライダー、野球などが多いです。中学生が学校の浅いプールに急角度で飛び込んで脊髄を損傷し、完全麻痺になる事故も後を絶ちません。脊髄損傷は年間5,000件くらい起こっています。現在の医療では有効な治療方法がなく、日本には10万人以上の患者がいます。

脊髄損傷からの再生

脊髄脊髄損傷直後には激しい炎症がありますが、それがかさぶた化するまでの4週間の間に、HGF(肝細胞増殖因子)を投与して、中枢神経の再生を誘導する試みがなされています。また、骨髄細胞を移植すると、損傷部位の神経細胞が修復、再生するといった報告があります。そのままでは治らない損傷部位に、細胞の増殖を促すたんぱく質を投与することで、再生へと誘導します。

iPS細胞バンク

新たな芽ぶき

神経細胞の再生に、iPS細胞を用いることも考えられています。しかし、iPS細胞をつくって神経細胞に分化させるまでに時間が半年はかかります。そうすると、4週間の治療リミットには間に合いません。そこで、前もってiPS細胞から神経幹細胞などをつくっておき、神経幹細胞バンクをつくるという構想が提案されています。他人の細胞にはなりますが、骨髄バンク、スキンバンク、アイバンクといった期間と同じように、いつでも治療に使える細胞を用意しておく構想です。

続いて目の再生です。

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参考文献

  • 八代嘉美、中内啓光:「再生医療のしくみ」日本実業出版社(2006年)
  • 田畑泰彦、岡野光夫「ここまで進んだ再生医療の実際」メディカルドゥ(2003年)
  • 田畑泰彦:「進み続ける細胞移植治療の実際上下巻」メディカルドゥ(2008年)
  • Newton 別冊:「夢の再生医療を実現するiPS細胞」ニュートンプレス(2012年)