iPS細胞は次世代の再生医療・移植医療に革命を起こす技術として期待されていますが、研究段階から、実際に現場で人々が医療を受けられるようになるまでには、安全性の確認など、まだやるべきことは多くあり。その中でも医療よりも先に実用化されることが確実なのが、新薬を作り出す創薬の分野です。

動物実験による安全性の確認

薬を作る過程では、薬の安全性の確認が綿密に行われます。日本ではまず動物実験において薬の有効性が確認されます。マウス、ラットなどを使って安全性の確認を行いますが、マウスと人間では構造が異なるため、マウスでは出なかった副作用が人間では出るということもあります。薬の副作用が出やすいのは心臓や肝臓です。

肝臓たとえば肝臓は飲んだ薬を分解する臓器です。本来は分解することによって無毒化して排泄することが目的ですが、場合によっては肝臓で分解されることによってかえって有害な物質ができてしまうことがあります。このようなことを動物実験の結果から予測することは困難です。加えて、動物実験は動物愛護の面でも議論になっています。

治験のコストの問題

動物実験の次は、被験者による治験が何段階にもわたってあります。現在、一つの薬を開発するのには10年以上、数百億円以上かかると言われています。コストをかけて動物実験をクリアしたのに、臨床試験で毒性が明らかになれば、開発は中止となり、全てが無駄になってしまいます。薬の開発自体、莫大な時間とコストがかかり、一部の大手メーカーでなければ資金面で難しいといった現状があります。薬は、適用される病気ごとに、治験を行う必要があります。有効な成分があったとしても薬として認められる前に、資金の問題で開発を断念せざるを得ず、薬になっていない物質も多くあります。

iPS細胞を使った安全性の確認

こういった問題を解決するため、iPS細胞を試験管の中で心臓や肝臓の細胞に分化させ、薬として使えそうなものを細胞に注入して、副作用の出ないものを選ぶという方法が研究されています。
マウスを使った創薬とiPS細胞を使った創薬

iPS細胞であれば、正常な人間のあらゆる臓器細胞を大量につくりだすことができ、医薬品の効果や安全性を確認する実験に役立てることができます。その薬が標的とする正常な人間の臓器の細胞を、大量に準備できるのです。また、個人によって薬の反応は異なりますが、もっと進んでいけば、その患者から細胞を採取し、その人が薬を飲んだ場合の効果や副作用まで試験管の中であらかじめ試してみることができます。このような、個々人に応じて最適な医療をほどこす「オーダーメイド医療」に熱い期待が寄せられています。

iPS細胞を使ったDDS製剤の創薬

DDS、iPS細胞を使った創薬

また、ドラッグデリバリーシステム(DDS)を利用する上でも、研究中の薬が体内の細胞にたどり着いた後、どのように作用するのか、薬のターゲティング性能や放出性能をあらかじめ確認することも可能になります。iPS細胞の作製技術とDDS技術、この双方を用いた新しい創薬が期待されています。

iPS細胞による難病の新薬開発

難病治療の希望

たとえば、ALS(筋委縮性側索硬化症)という難病は、脳から筋肉へと指令を出す神経細胞が変性し、手足・のど・舌などの自由がだんだん奪われていく病気です。現状では原因不明、治療法なしという病気です。この患者から皮膚の提供を受けてiPS細胞を作製すると、細胞の中で異常な状態が発見されました。ALSの原因と考えられる箇所に対して、薬を投与すると、異常をおさえられることがわかったそうです。これまで治すことができない難病と言われていた病気も、患者の細胞を取り出してiPS細胞を培養し、体内の細胞の様子を調べることで、治癒の可能性が出てきています。これを「病態モデル」と言って、今後の難病の治療などに期待されています。

続いて、iPS細胞が変える再生医療です。

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参考文献

  • 金子隆一、新海裕美子:「この一冊でiPS細胞が全部わかる」青春出版社(2012年)
  • Newton 別冊:「夢の再生医療を実現するiPS細胞」ニュートンプレス(2012年)
  • 中西貴之:「なにがスゴイか?万能細胞」技術評論社(2012年)
  • 日経サイエンス編集部:「iPS細胞とは何か、何ができるのか」日経サイエンス社(2012年)
  • 升井伸治:「iPS細胞が再生医療の扉を開く」C&R研究所(2009年)