2012年の統計で、日本人の死因で多いのは、1位がん36万人、2位心臓病19万人、3位が肺炎12万人、4位が脳血管疾患12万人、この4つで全体の6割を占めています。ここでは心臓病の再生医療に焦点をあてます。

心臓病の種類と特徴

心臓病心臓病には、心臓の一部の細胞が死ぬことによって起こる心筋梗塞と、心臓の壁が薄く延びてしまい、筋肉の収縮力がなくなって、血液を送る力が弱くなってしまう拡張型心筋症などがあります。

心臓の筋肉は一度つくられるとその後増えることがありません。つまり、心筋梗塞によって死んでしまった細胞は、そのままでは修復されないのです。死んだ細胞の空間ができると、繊維状の細胞が増殖して穴をふさぎます。しかし心臓の血液を送り出すポンプの能力は弱まってしまうのです。

心臓病の治療

心臓の薬

対症療法として、薬によって対応していましたが、これは病気を遅らせるだけで、根本的な解決にはなりません。唯一心臓移植をすることで根本的な治療となりますが、ドナーが絶対的に不足しています。また、移植が成功したとしても、他人の心臓を使うので、免疫による拒否反応が出ます。この免疫をおさえるため、免疫抑制剤をとり続けないといけないので、今度は合併症の危険が出てきます。心臓の代替をする人工心臓も古くからありますが、どうしても長期的には血液が固まって血栓ができてしまう危険性を免れません。

骨髄細胞の移植

骨髄

現在、欧米を中心として、患者本人の骨髄の細胞を取り出して心筋の壊死した部分に注射するという治療がなされています。骨髄には造血や血管を新生する細胞などがいると考えられているためです。おおむね治療効果はあがっていますが、どのような仕組みで心臓の能力が改善されているかはわかっていません。注入した細胞は1割しか生存していないという報告もあります。

細胞シートによる再生

2007年に大阪大学の病院で、細胞シートを使った治療が行われました。患者本人のふとももの筋肉の細胞をとって、シート状に培養し、患部に移植する手術を行いました。ふとももにある筋芽細胞、筋肉を修復する細胞をとってきて培養したのです。これを注射しただけでは生着しないので、外部でシート状に培養します。培養したシャーレから細胞シートをはがし、シールを貼るように心臓の患部にペタっと貼り付ける治療です。貼り付けたところから毛細血管を誘導して、3か月で人工心臓を取り外せるところまで回復しました。

細胞シート

細胞シートで作製したラットの心筋細胞

細胞シートとは

iPS細胞やES細胞はどんな細胞にも分化できますが、これを実際の再生医療で使うには、培養した細胞を生着させる方法が必要です。細胞シートはすでに細胞移植治療で実績をあげており、期待されています。

通常シャーレでシート状に細胞を培養しても、それをはがすために、酵素を入れてはがそうとします。しかしこの酵素の分解する力によって、シート状の細胞が崩れてしまっていました。東京女子医大の岡野光夫教授は、もともとDDSの研究をしていたので、ここでDDSのコントロールドリリースの技術を用いました。薬を体内の温度変化によって放出するか、放出しないか、ON/OFFをコントロールできる温度応答性ポリマーというDDS材料があります。室温の状態では水にとける材質ですが、32度以上になると水にとけなくなります。この性質を利用して、シャーレの底にこの材料を敷いて、そのうえで細胞を培養しました。細胞シートをはがすときには温度をあげるとシート状のまま、細胞をいっさい傷つけることなくはがすことができます。これまでシャーレの底にはりつけていた細胞は体内の患部でも生着しやすく、血管を誘導するなどして、細胞が生き続けます。

医学と工学の連携

細胞を培養する技術はこれまで医学の分野等で行ってきましたが、この温度応答性のシャーレをつくるには工学の高分子の知識が必要となり、DDSの技術がそのまま再生医療に応用された事例です。これまで連携することがなかった治療の医学とモノ作りの工学の専門分野がうまく融合し、新たな治療法を生み出しています。

細胞シート工場

細胞シート

この細胞シートは何層にも重ねることができるため、このシートを利用して3Dの臓器をつくる研究もされています。細胞の層だけ重ねていくと血管からの栄養が届かなくなってしまうので、血管の層も重ねて培養します。そして様々な臓器をつくり、将来は患者から細胞をもってきて細胞シート工場で培養し、各医療機関へ届ける構想で研究を進めています。iPS細胞で心臓の筋肉細胞シートをつくり、移植する可能性もあります。

続いて肝臓の再生です。

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参考文献

  • 八代嘉美、中内啓光:「再生医療のしくみ」日本実業出版社(2006年)
  • 田畑泰彦、岡野光夫:「ティッシュエンジニアリング2007」メディカルドゥ(2007年)
  • 田畑泰彦:「進み続ける細胞移植治療の実際上下巻」メディカルドゥ(2008年)
  • 岡野光夫:「『細胞シート』の奇跡」」祥伝社(2012年)
  • Newton 別冊:「夢の再生医療を実現する」ニュートンプレス(2012年)