ドラッグデリバリーシステムの基本的な考え方である、①バリアゾーンの通過促進②ターゲティング③安定化④徐放化 についてここで解説します。

1.バリアゾーンの通過促進

バリアーゾーン

人間の体には外敵から身を守るためのバリアゾーンがあります。皮膚のバリアゾーンと、腸のバリアゾーン。

皮膚の表皮は水分子一つすらも通さないバリアゾーンです。水をこぼしても、体の中にまで水は入ってきません。通してはいけないものを通さない。これはなくてはならない仕組みです。全身大やけどした人は、まず無菌室に連れて行かれます。やけどによって皮膚のバリアゾーンが壊れ、菌が入ってきたら水ぶくれになったりしてしまうからです。

また、体内には腸のバリアゾーンがあって、ウイルスを通しません。私達の体が雑菌だらけの空間で生活できるのはバリアゾーンがあるからです。バリアゾーンには免疫系の細胞が住んでいて、ウイルスや雑菌が入ってきたら通さないように戦います。

ところが、薬は治療のために腸から吸収してもらう必要があります。ですから、薬を腸から吸収させるために様々な工夫をします。

たとえば、腸の吸収性が高い物質と薬を組み合わせて、腸からの吸収を改善する方法があります。

また、バリアゾーンを通りやすくするように、バリアゾーンの細胞側に働きかけて、物質を通しやすくする方法があります。

私達は薬や有効成分の質や量に気をとられがちですが、実際の効果を高めるためには、それらの物質が、きちんとバリアゾーンを通過して吸収され、目的の細胞まで届いているかどうかに気を配る必要があります。

2.ターゲティング

ターゲッティング

目的の成分を目的の場所まで届ける技術がターゲティングです。この有効成分がいいと思って飲んでも、ターゲティングしていなければ、目的の成分がその細胞に届いているかどうかおぼつきません。

たとえば、腹をすかせた子供におにぎりをあげたいけれど、飛行機でその子の住んでいる地域におにぎりを投下しても、実際その子が食べるかどうかわかりません。食べ物が見つからないかもしれないし、ほかの子が拾って食べる可能性もあります。

ターゲティングとは、目的の細胞にゴールを定めて、確実に届けてあげる技術です。前のたとえで言えば、腹をすかせた子供にきちんとおにぎりを届けてあげる技術です。

ある物質は、がん細胞に引き寄せられやすい性質があります。これと薬を組み合わせて飲めば、がん細胞に薬を運ぶことができます。

3.安定化

安定化

よく効く有効成分があるとします。しかし、その物質が水に溶けにくく、体内に取り込むのが難しい、ということがあります。水に溶けない物質を体内に入れると、血管がつまったりして大変なことになります。

これを防ぐために、たとえば石鹸のように水と油が合わさる材料を使って、水に溶けない薬を水に溶けるようにします。こうすればスムーズに体の中を流れていきます。

有効成分が水溶化して体内に取り込まれたとしても、そこで安心はできません。

たとえば、ハンカチに直接インクを垂らして、藍色に染まったとしても、水をはった浴槽にインクを垂らして、底に沈んだハンカチが藍色に染まるかというと、そうではありません。インクが水によって薄まるため、思ったような効果が出にくくなります。

水分でできている人間の体内で有効成分がよいパフォーマンスを発揮するためには、それなりの工夫が必要です。

さらに、人間の体には防衛機能があり、異物を取り除こうとします。体にとって異物である有効成分を届けるには、それらが異物として取り除かれないように、1分でも長く体内にとどまることが必要です。

薬や有効成分が、水分や油分、熱のある体内にはいって、異物を排除する免疫系を通過する中でも、本来のパフォーマンスを発揮できるような状態にしてあげることを「安定化」と言います。

4.除放化(徐々に放出する)

細胞は生きているので、絶えず食べ続けるわけではありません。細胞は、お腹がすいて食べたい時にしか食べません。

バリアゾーンを通過して、ターゲティングをして、安定化した状態の物質を持って、ようやく細胞のところに辿り着きました。でも細胞が食べたがっていなければ意味がありません。

関門を通過して、目的の家を見つけて、おいしい食べ物を持って行っても、家主がちょうど満腹で食欲がなかったら、引き返すしかありません。

屋台が家の前を通過したとき、家主がちょうどおなかをすかせている確率はそんなに高くはありません。

しかし、屋台が家の敷地に10日間とどまる権利を得たらどうでしょうか、10日間の間に、家主は何度もおなかをすかせるし、屋台を利用する確率もぐんとあがります。

「除放化」とは、薬や有効成分を細胞の近くにとどまらせて、何日間もかけて徐々に有効成分を放出する技術です。

徐放の基本的な考え方

上図は1日朝晩2回の薬を3日間飲んだ場合の、血液に薬がどれぐらいとどまっているかを表しています。血中濃度が7~13あたりが治療に最適な薬の濃度だとします。

朝、薬を飲んだ時は一時的に治療に必要な濃度を超えてしまい、副作用が出る濃さになってしまいます。その後治療域に入りますが、12時間で効力を失ってしまうので、また晩に薬を飲みます。すると同じようにまた一時的に副作用が出る濃度まで濃くなり、副作用が出てしまいます。

これが徐放する薬であれば、1度の薬の投与で、長くとどまり、徐々に薬を放出していくので、血液中で一定の濃度を保ち、副作用が出ないような治療域の濃度を保つことができ、さらに最初に1度飲むだけで数日間もつということになります。

このようにするためには、たとえば薬を体内で分解される材料に包んで飲みます。その材料が徐々に体内で溶けていくのに合わせて、有効成分が体内に浸透していきます。

また、放出することに関して、時間がきたら一気に放出するようになる時限放出型のものや、体の外から超音波や光を当てて体内に入れた薬を放出させる方法もあり、これらを合わせてコントロールドリリースとも言います。

続いて、ドラッグデリバリーシステムで使われる材料についていくつか例をあげて説明します。

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参考文献

  • 橋田充、高倉善信:「図解で学ぶDDS」 じほう(2010年)
  • 永井恒司:「DDSの基礎と開発」シーエムシー出版(2006年)
  • 岩田博夫、加藤功一、木村俊作、田畑泰彦:「バイオマテリアル」丸善出版(2013年)