人間の体にはバリアゾーンがあるという話をしましたが、このバリアゾーンを通過し、薬の吸収を改善する方法を、もう少し詳しく掘り下げて解説します。吸収促進性をもつDDS材料と薬を組み合わせることで、薬のバリアゾーン通過性が改善されます。

体の中のバリアゾーンの通過

バリアゾーンは、人間の体の中でいくつもあります。
バリアゾーン
たとえば、薬を血管に注射してがん治療を行うことを例に考えてみます。

血中に入った薬は、まずは血管の壁、血管のバリアゾーンを通過しなければいけません。

次に、がん血管から出た薬は、がんの組織のバリアゾーンを通過していく必要があります。

さらに、がん細胞の中の核に薬を当てないといけない場合は、薬はがん細胞の細胞膜のバリアゾーンを通過する必要があり、さらに核膜のバリアゾーンを通過する必要があります。

このように、薬が目的地につくまでには多くのバリアゾーンがあり、これらを通過していくことが、薬の効き目を向上させる鍵となります。

飲み薬の場合のバリアゾーン

経口投与がん細胞に対して、注射して薬を入れた場合は上記のようなバリアゾーンがありますが、口から飲み薬で飲んだ場合は次のようなバリアゾーンがあります。

口から入った薬は食道を通って、胃に入り、その後小腸に移動します。小腸でうまく吸収されなければ、大腸、直腸に移され、体外に排泄されてしまうため、薬は何とかして小腸のバリアゾーンを通過して体内に取り込まれる必要があります。

また、胃は酸性が非常に強く、小腸に移動するにつれて中性、弱アリカリ性になっていきます。この性質に合わせて、薬を包むカプセルが、狙い通りに溶けるように計算します。DDS材料と薬を組み合わせ溶解、吸収されやすいサイズと性質を与えます。

薬が組織や細胞膜のバリアゾーンを通過する時にも、薬と材料を組み合わせ、最適なサイズと性質を与えることで吸収が改善されます。

遺伝子医療において、遺伝子を細胞の中に入れる必要がある時、遺伝子とDDS材料を組み合わせ、遺伝子が細胞膜のバリアゾーンを通過できるようにします。この技術もDDSの技術です。

排毒との戦い

排毒

薬は人間にとって役立つものとして使いますが、人間の体は薬を異物とみなして排毒しようとします。DDSの研究は、いわば排毒との戦いです。薬をできるだけ吸収させて、1分でも長く体内にとどまらせようと工夫しますが、人間の体はバリアで防ぎ、免疫システムが排毒するように働きます。生体系は複雑で、1度目は薬がうまく吸収されたものでも、2度目には肝臓に送り込まれて、排毒作用で処理されるということもあります。人間の体はこれほどまでに排毒システムがしっかりと作用しているものかと驚かされます。DDSは、薬を作用させ、吸収を改善するために下記のような様々な工夫が行われています。

プロドラッグ

プロドラッグ

プロドラッグとは、体内に入ってすぐには薬として作用しないけれども、酵素によって、一部分が代謝されると効果を発揮するように設計されたものです。体内の目標となる場所に到着してから、薬として作用するようになります。

たとえば風邪で38度以上の熱が出た時に解熱鎮痛剤が処方されます。解熱鎮痛剤は胃潰瘍などの副作用の危険性がありますが、プロドラッグ化することで、胃腸を通り過ぎるまでは溶けないようにして、胃潰瘍の副作用を回避させ、胃腸を通過した後に薬が作用するというしくみです。

投与経路の変更

経肺吸入器

薬は飲み薬が大半で、口から入る場合には胃や肝臓を通って代謝されますが、作用させる臓器に応じて、薬の経路を変更する方法があります。

たとえば粉末状の薬を口から吸い込んで、肺に直接送り込む方法があります。肺は非常に表面積が広い上に、全身の血液が流れ込んでいて、血流が速いのが特徴です。もともと消化するための臓器ではないので、代謝酵素があまりありません。そのため、薬を肺から吸い込んで代謝による変質を防ぎ、体内へ吸収するという薬が登場しています。

座薬など、肛門、直腸から入れるタイプの薬は、肝臓を経由しないため、肝臓の代謝酵素による変質を防ぎ、体内へ吸収されます。

吸収促進剤、酵素阻害剤

薬自体を変えるのではなく、細胞の間隔を広げて薬を通りやすくする吸収促進剤を使うという方法があります。また、薬が酵素によって代謝されることを防ぐために、酵素の働きを抑えるというものもあります。

続いて、患部を狙い撃つためのターゲティングについて説明します。

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参考文献

  • 橋田充、高倉善信:「図解で学ぶDDS」 じほう(2010年)
  • 永井恒司:「DDSの基礎と開発」シーエムシー出版(2006年)
  • 岩田博夫、加藤功一、木村俊作、田畑泰彦:「バイオマテリアル」丸善出版(2013年)