トカゲのしっぽが再生する現象をヒトで誘導し、治療に役立てようとする試みが、再生医療です。ここでは再生医療の概念について詳しく解説します。

再生医療とは

トカゲ

トカゲが植木鉢の間でちょろちょろと走っている姿を見て、捕まえようとしっぽをおさえると、自分のしっぽだけを切り離し、逃げていきます。切れたしっぽはそのままではなく、再び伸びてくる再生機構をもっています。人間にも再生能力は備わっていて、たとえば道端で転ぶと膝に擦り傷ができますが、次第にかさぶたとなり、一か月もすると皮膚が再生してきます。折れた骨も、数か月たてばつながって再生します。しかし人の再生能力にはトカゲのしっぽとは違い、限界があります。手足や、肝臓、腎臓などの臓器をそのまま再生することはできません。そのままでは元に戻らない失った機能を回復させる医療が、再生医療です。

再生医療が期待されているのは、これまで根治できなかった病気を治す可能性があるからです。根治が難しいとされる難病が日本では130種類あり、根本的な治療法がない中で、取り急ぎ薬で症状を抑えながら生活している患者が多数存在しています。再生医療はこれらの病気の完治に向けての糸口となり、これまでの医療を大きく変える可能性を秘めています。

薬物治療

薬物治療

現代の一般的な医療では、まずは薬によって治すことができないかを考えます。薬は結核のような菌の働きを抑えるには有効で、これまでたくさんの病気を治療してきました。しかし、薬の大半は、病気を根本的に治すわけではなく、免疫力をサポートして、悪い菌の働きを抑えることに主眼が置かれています。慢性的な病気などは、薬を飲み、症状を抑え続ける治療がとられますが、根本的に治すわけではないので、薬を飲み続けなければならず、副作用の問題がつきまといます。

人工臓器

人工心臓自然治癒力では治らないレベルの「病気」になったとき、体内の失った機能を人工臓器移植で対応します。人工心臓、人工腎臓(透析)、人工血管、といったものです。技術が進んで体になじみやすい材質が使われたり、耐久性も日々向上しています。しかし、どうしても人工物だと血管がつまりやすくなったり、透析であれば週3回、5時間ほど通院しなければならなかったり、肝臓のように多数の機能を果たしている臓器は、そもそも人工物による置き換えが難しかったり、様々な課題があります。

臓器移植

臓器提供意志表示カード臓器移植という治療法があります。臓器を交換すれば、たとえばインスリンのように、体外から注射で取り込み続けなければいけなかったものが体内でつくれるようになり、患者の生活が大きく変わります。しかし、移植する臓器は大抵脳死などで亡くなったドナーから提供ですが、世界的に見ても絶対数が足りません。手術を受ける人よりも、それを待っている人が圧倒的に多いのが実情です。臓器移植は、臓器売買や倫理問題など、多くの問題を抱えています。もう一つ、他者から臓器を移植してもらうと、どうしても免疫拒絶反応がおきます。この働きを抑えるために、一生免疫抑制剤を飲み続けなければなりません。免疫抑制剤は移植された臓器だけに作用するわけではないので、感染症やがん、高血圧、高血糖といった合併症にかかりやすくなります。

このような課題を解決する糸口として、再生医療に期待が集まっています。

再生医療には大きく分けて次の2つのアプローチがあります。

再生誘導治療

人にはもともと失った機能を回復させようとする自然治癒力があります。細胞を増やし、足りない部分を補う働きです。病気になったら、自然治癒力を高め、細胞の働きを誘導することで、病気を治すようにアプローチしていきます。

風邪とおかゆたとえば私たちが風邪をひいたときは、おいしいものを食べてゆっくり休めば、すぐに元気になります。細胞も同じです。細胞が元気になる環境を整えて、細胞の増殖、分化を助けて、体を治そうとする力を助けてやる、つまり、生物が本来持っている自然治癒力を利用してからだを治す、これが再生誘導治療です。

再生誘導による治療

細胞が増えるときには、細胞増殖因子というタンパク質を出します。再生させたい、増殖させたいところに、細胞増殖因子を入れます。すると細胞がそちらの方に増殖し、そのままではふさがらなかったはずの穴が、生きた細胞でふさがるようになります。

上記のプロセスを行う上で重要なのがDDSです。病気のときは、台所に行くどころか、食べ物に手を伸ばすのも辛いです。できれば、お皿に盛って枕元に持ってきて、箸で食べさせてほしい。この皿や箸に相当するものがDDSです。細胞増殖因子は、そのまま体に入れただけではすぐに散ってなくなっていってしまいます。これを再生させたい場所に、体内で長くとどまるようにして、細胞が食べたい時に食べられるように徐々に放出する。そのためにDDSの技術を使います。徐々に放出して行って、再生を誘導し、誘導し終わったらDDSの材料自体は体に吸収されてなくなる。これで体の機能を元通りに戻します。これを再生誘導治療といいます。

細胞を移植する再生医療

iPS細胞 臓器移植

自分の細胞を採取し、試験管の中で培養して育て、それを本人の体に移植する。これが細胞移植による再生医療です。iPS細胞の発見とともに、この再生医療への期待が一気に高まっています。iPS細胞を使ったとしても、体内の臓器お全く同じものをつくることは非常に難しく、安全性の確認などを含めると、細胞培養による臓器移植は、まだ何年もかかると言われています。しかし細胞の一部を培養し、それを移植して生着させる医療は、もう実現しているものもあります。ここでも、前述した再生誘導の概念が重要になってきます。ここでは再生医療が具体的にどのように進んでいるか、体の箇所ごとに見ていきたいと思います。

まずは皮膚の再生についてです。

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参考文献

  • 八代嘉美、中内啓光:「再生医療のしくみ」日本実業出版社(2006年)
  • 田畑泰彦:「ここまで進んだ再生医療の実際」メディカルドゥ(2003年)
  • 田畑泰彦:「進み続ける細胞移植治療の実際上下巻」メディカルドゥ(2008年)
  • 岡野光夫:「『細胞シート』の奇跡」祥伝社(2012年)